日銀によるETFの買い取りの意味


日銀が決めた上場投資信託(ETF)の買い取り額を年間6兆円にほぼ倍増させる政策をどの様に考えるべきかについて何人もの方から質問を受けています。

5月下旬に民主党の大久保勉参院議員が提出した資料によると、日銀のETF保有額は2016年3月末で8兆8000億円(時価ベース)。日銀が買い取り対象としている「日経225」「東証株価指数(TOPIX)」「JPX日経400」に連動するETFの市場規模は13兆9000億円であるから日銀の保有割合は63%となっています。

ただ、日銀が言うようにETFの裏には巨大な株式市場があり、日銀のETF保有割合自体は大きな問題ではありません。日銀がETFの買い取り額を年間6兆円に増やすと、3月末時点では日銀が買い取り対象とするETFが市場に5兆1000億円しか残っていないため、ETF市場が拡大しなければ、1年もたたないうちに日銀が買えるETFは尽きてしまうという指摘もありますが、基本的にはETFを買う場合にはその分の現物株をETFとして運用会社が買うだけなので特別なやり方で新たな設定を行うのではなく通常のプロセスで現物株を買っていくだけなので特別のプロセスは必要ないと考えられます。

ただし、前述の資料では、日経平均に採用される225銘柄のうち、日銀が買い取り対象としているETFに組み入れられている株式の割合が10%以上の企業が25社に及び、5%以上10%未満の企業も64社あるとされており、日経平均を買い入れるという事は指数の特性から個別銘柄に対する影響は大きくなっていると考えらえます。

日銀はETFを通じて多くの企業で間接的な大株主といえます。しかし、日銀が個別企業を買うのとは異なり、ETFを構成する株主の議決権は投資信託会社がスチュワードシップ・コードの下で信託銀行を通じて行使することになるため、議決権行使という点ではむしろ健全な動きとなります。

つまり、感覚的には日銀が日本株式市場の大株主になるというのは、いびつな感じもするため、気持ち悪さを感じている投資家も多いようですが、実態としての日銀が説明している通りで悪影響はそれほど大きくないと考えられます。

では、金融緩和の手段としてETFの買い入れ増額にはどの様な意味があるのでしょうか。まず、当然のことながら、ETF買い入れ増額によってベースマネーを増加させる効果があります。しかし、これは他の資産を買っても同じであり、金額としてのインパクトは大きくありません。ではなぜ、他にもある選択肢の中でETFの買い入れ増額なのでしょうか。やはり、増加資金が株式市場に流れ込むことで、主として株価を押し上げる効果を持つという効果が大きいといえます。

さらなる追加緩和の選択肢の一つとして、マイナス金利政策の深掘りも考えられます。理論的には債券利回りが下がり、投資家の要求する株式収益率が下がり、円安となることになります。しかしながら、今年1月のマイナス金利導入後の動きを見ると株安と円高が進んでおり、必ずしも理論通りの効果を得られていません。ECBなどではそれなりの効果が得られている政策がなぜ日本ではそれほど効果を出しているように見えないのかについては今後の検証を待つ必要がありますが、基本的には株式に対して投資家が要求する期待収益率(将来キャッシュフローに対するディスカウントレート)が下がらない限り、投資が増やせない状態にあるのではないでしょうか。

仮にその様な仮説を置くと、マイナス金利の深堀を行っても企業の投資意欲は高まらず、資金需要も増加しません。そうなると、マイナス金利の深堀は貸出を伸ばせない銀行に対するペナルティーを増やすだけになってしまい、銀行株中心に株式市場が下落するために、市場のインプライドディスカウントレート(市場価格から逆算される投資家が要求する期待収益率)の上昇によりさらに資金需要が小さくなるという悪循環を生みかねません。

それと比べた場合、ETFの買い入れ増額によって株式市場自体の水準を引き上げることが可能であるとすると、他の条件が同じであるならば市場のインプライドディスカウントレート低下し、企業の投資可能性が高まることも期待できます。

また、満期がある国債の買い入れと異なり、基本的には値下がりリスクのある資産を買い入れることによって、実際には様々な手法で可否出来るにもかかわらず、日銀のバランスシートリスクがあるようにも見え円安になることも期待できるかもしれません。

この様に考えると、デフレ脱却を目指して、企業の資金需要を高めるための手法として、現時点ではETFの買い入れ増額は効果的な戦略と考えられるのではないでしょうか。



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