投資家との対話における適法性と妥当性


適法性と妥当性というと監査の話をイメージするかもしれませんが、今回は投資家との対話や社外取締役からの質問に対する対応に関するものです。

日本企業は適法性に関しては慎重な対応が行われており、積極的な議論が行われています。コーポレートガバナンスに関する意識が高まり、投資家からは素朴な疑問が投げかけられる場面も増えていると思いますが、多くの質問に関しては企業の中では、その適法性については既に議論済みとなっています。

投資家からの質問の中には弁護士解釈で問題ないとされ、上場会社が横断的に行っている株式・総務部門でのミーティングではすでに結論が出ており企業関係者の間では共通認識と考えているものもあります。しかしながら、これらは弁護士先生から見た場合、法的に問題はない、許される範囲であると解釈したに過ぎないものも多いのではないでしょうか。投資家から疑問が出るにもかかわらず、企業が問題なしとしているものの中には、適法であるという結論は出ているものの、積極的に推奨すべきと弁護士先生が言っているわけではないものが多く含まれていることに注意が必要です。

つまり「適法であることは妥当であることの必要条件ではありますが、十分条件ではありません」
企業と投資家のガバナンスや・株主総会のあり方に関する議論を見ていると、企業側がこれまでしっかりと勉強し適法性の確認を徹底的に行ってきたがゆえに、投資家からの素朴な質問に十分答えていない場面があると感じます。

例えば、株主総会におけるお土産や株主優待について考えます。
個人投資家の多くは、株主総会におけるお土産や株主優待を楽しみにしています。もちろん、これらは株式の変動リスクと比べると大きくなく、合理的に考えると、それを理由に投資を行うようなものではありません。しかしながら、企業は自分たちのファンとなる個人株主作りのためにそれらを行っているわけです。また、配当などと異なり、お土産や優待のあり方について会社としてコミットしている会社は稀でしょう。しかし、雑誌などでも優待込み利回りなどという言葉が使われるなど、個人投資家から見た場合、あたかも株主の権利のような捉えられ方をされている場合もあります。そうなるとその権利を実質的に得られない機関投資家や外国人投資家から見た場合、不公平感のある制度とみられることもあるわけです。

企業の方から見るとこの指摘は、何度も議論をしてきた内容です。たしかに厳密にいうと、個人株主と機関投資家、特に外国人投資家が使うことが不可能なものを株主という理由で配るというのは、やり方が非効率であるだけでなく、株主平等原則に反しているようにも感じられます。しかし、額が少額であることなどから特に株主平等原則を問うようなものではないというのが弁護士先生の意見でもあり、企業の総会担当者の間では総会でのお土産に問題がないことはコンセンサスであると思います。ただ、それに対して機関投資家や社外取締役から疑問を呈されることは今後もあるでしょうし、そのような疑問を持つこと自体は自然なことだと思います。なぜならば、なぜそこまでして個人投資家の方々を株主総会に呼びたいのかということが、素朴に考えた場合には理解できないからです。機関投資家から見た場合、個人投資家は議決権行使を行わない人も多く、また行う人も基本的には無条件で賛成している方が多いというイメージがあります。そのため、機関投資家のように口うるさくなく、不適切な議案に対しても反対票を投じない株主を特別大事にしているような何となく胡散臭い雰囲気を感じているわけです。もちろん、ここには様々な誤解があります。企業から見た場合、個人投資家を株主総会に呼ぶことは賛成票を増やすことにはなりません。なぜならば、通常の場合、株主総会当日の票は分母には入れても分子には入れないからです。つまり、個人投資家のために総会でお土産を配ることは安定株主工作とは本質的に異なるわけです。したがって、企業はこのような質問が出るたびに、その目的を丁寧に伝えればいいわけです。

また、その説明として、これは既に弁護士確認が取れており問題がないと説明するのは不適切です。なぜならば、株主や社外取締役が問うているのは適法性ではなく、妥当性だからです。株主の対話や社外取締役の役割の1つには、社内の論理だけでは偏りがちな意見に対して社外から見た素朴な疑問をぶつけ、「気づき」を与え、透明性を高めることがあります。コーポレートガバナンス・コードで原則主義が採られ、そこで求められているのは、適法性を超えて企業が社会的責任を果たすところにあります。したがって、同じ質問が繰り返されることは健全であり、企業はそのたびに再考し、理解しやすいように答えるという姿勢が健全なのではないでしょうか。企業は開示や説明を行う際には適法性の説明にとどまらず、妥当であることの説明を行うということを意識することがますます重要になると考えられます。




 

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