企業と投資家の認識ギャップ1(企業価値の配分)


①企業と投資家には様々な認識ギャップが存在する。
②賃金や経営者報酬に関しても、それを減らすことを投資家は望んでいない。
③企業は企業価値向上への道筋を示し、適切で競争力のある賃金と報酬の体系を示すことが必要だ。
④企業価値が向上している企業は当然従業員の賃金も経営者報酬も上昇すると考えられる。

企業と投資家の方々とお話をしていると、両者に様々な認識ギャップがあることに気付きます。第一回目は投資家がイメージしている企業価値の向上による株主の配分へと、企業がイメージしている投資家が求める株主への配分についてです。

投資家は、当然のこととして利益の拡大と配当などによる株主還元を求めています。ただ、基本的に税引後利益は内部留保として残す場合は、投資家としては増資に応じて企業が成長に向けて再投資を行う事を意味しており、配当は成長投資に使わない部分を株主に返すものと考えています。したがって、配当を行わず、純利益をあたかも企業の持ち分のように使う事には違和感を持つため配当を求めるという面はありますが、本質的には配当か内部留保かというのはROEと企業ごとに異なるサステナブル成長率との関係で決まっていることはこれまでにも説明してきたとおりです。

さて、今回は配当の前の段階、つまり株主の持ち分である税引後利益にたどり着く前までの配分について取り上げます。
日本企業の方の説明を聞いていると、その計画がコスト削減に偏り過ぎている事に気付きます。つまり、利益の拡大を求める株主に対して、企業の付加価値から様々なステークホルダーへの配分を少しずつ小さくして、株主への配分である税引後利益の拡大・維持するための説明を行う部分がかなり多いわけです。
これは、一見株主への配慮のように聞こえますが、投資家は単年度の利益を維持する事よりも長期のキャッシュフローで計算される企業価値の拡大を望んでいます。したがって、単年度あるいは今後数年間の利益を確保するというだけでは企業が今後生み出すキャッシュフローの持続性についての不安が解消されないわけです。

価値配分

長期的に見た場合、取引先へのコスト削減要求、人件費の削減などが本当に企業価値の向上に繋がるかはよくよく注意する必要があります。
例えば、従業員の賃金は従業員の満足度と直接的に関連すると考えられます。日本ではそのような分析はあまり行われていませんが、欧米では従業員満足度と顧客満足度が直接的に関連するという分析結果が幾つも出されています。つまり、一時的な危機におけるコスト削減ならばまだしも、長期間に渡ってだらだらと賃下げが続くと、従業員のモチベーション、そして顧客満足度の低下につながり、長期的に企業価値は大きく損なわれると考えられるわけです。

これは、役員報酬についても同じです。業績不振が続く中、役員報酬を上げることは難しいというのは、一般的な考え方だと思います。しかしながら、グローバルな競争相手と比較した場合、そのような報酬で優秀な外国人役員を採用できるのかという問題があります。また、日本人の役員と比較して外国人役員だけが高い報酬を貰うのもバランスが悪いと言えるでしょう。7月1日の日経新聞によると2016年3月期に報酬1億円以上を受け取った役員が過去最多の414人となったとのことですが、これは前期の累計413人を少し上回ったに過ぎません。海外事業の収益拡大や業績連動報酬が広がり、高額報酬を受け取る役員が増えたとありますが、コーポレートガバナンス・コードによって健全なインセンティブの1つとして機能することが求められた訳ですから、企業価値向上のためにKPIsを示し、それとリンクした報酬体系を示すことで、グローバルに見て競争力のある役員報酬を支払う企業がもっと出て来ることが必要なわけです。6月30日時点で報酬1億円以上の役員を開示したのは僅かに211社。会社別にみると三菱電機が最多の23人となっています。投資家から見た場合、主力のFA機器が好調で企業価値を拡大している三菱電機の報酬を批判する人は少なく、報酬は低くても企業価値を拡大できない企業の役員については批判があると思います。投資家は健全なリスクテイクを行い業績を上げることで、グローバル企業と戦っていける報酬体系を企業が導入することを望んでいると考えられます。

もちろん、企業経営が今のままで従業員の賃金と経営者報酬を上げただけでは利益は低下するだけですから、株主はそのようなこと望んでいるわけではありません。賃上げと経営者報酬の拡大が、顧客満足度に繋がり、優秀な経営者が適切なリスクテイクを行う事で企業価値を拡大できると考えるから、それを評価するわけです。

多くの投資家が考えている健全な企業価値の拡大は企業の事業ポートフォリオの再構築によって成し遂げられています。多くの企業は様々な事業を抱えていますが、その中には競争力があるものと既に競争力がないものがあります。競争力のある事業の社員は競争力のない事業を支えるために努力を続けているという意識があると思います。もちろん、企業内部の人から見るとどの事業に配属されたかは偶然の人事にもより、それによって差が出ることは不平等と考えるかもしれません。しかし、その会社にとって競争力がない事業でも他社がマネジメントすれば利益が出せる事業はあります。また、競争力がある事業に戦略的投資を集中させることで、その事業で雇用できる人の数はもっと膨らむと考えられるわけです。

多くの日本企業は従前の事業を続け、みんなで痛みを分け合うことによって乗り切る努力を続けてきました。しかしながら、日本企業の中でも現在成功を収めている大企業の中には大胆な事業の組み換えを行う事によって競争力を取り戻した事例が多々あります。1億円以上の役員が最多となっている三菱電機、半導体事業を切り離し建機に集中したコマツなどはその代表例ではないでしょうか。




 

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