スチュワードシップ責任と運用者の報酬



①スチュワードシップ活動を適切に行っていくための実力を具備した人材の育成には、長期にわたる報酬制度が重要である。
②報酬の考え方は、運用会社の投資哲学が色濃く反映されるため、委託者にとってもその考え方を知ることは重要。

日本版スチュワードシップ・コードでは、原則7において「機関投資家は、投資先企業の持続的成長に資するよう、投資先企業やその事業環境等に関する深い知識に基づき、当該企業との対話やスチュワードシップ活動に伴う判断を適切に行うための実力を備えるべきである。」として企業とエンゲージメントを行うにふさわしい実力と体制を整備することを求めています。

4/3に書きました、(「スチュワードシップ活動の実力具備の説明に何が必要か」では運用者の人事評価、業界での活動による幅広い情報収集、活動方針の定期的見直し、方針の改訂履歴の開示が重要であることを説明しました。

そのなかで、業界での活動による幅広い情報収集、活動方針の定期的見直し、方針の改訂履歴の開示といった部分は、すでに多くの会社で改善がみられます。しかしながら、人事評価の考え方といった部分について開示を行っている会社は、まだあまり見られないのではないでしょうか。英国でもスチュワードシップ・コードのステートメント(受入方針文)で運用者の報酬について示しているわけではありませんが、別途NAPFが用意しているスチュワードシップのディスクロージャーフレームワークの中で報酬やインセンティブに関する方針を4段階に分けて、その考え方が示せるようになっています。

(A)Significant proportion of compensation for investment staff based on at least 5year portfolio performance with a policy on co-investment.
(B)Significant proportion of compensation for investment staff based on at least 3year portfolio performance.
(C)Significant proportion of compensation for investment staff based on at least 2year portfolio performance.
(D)Compensation for investment staff has no portfolio performance link.

顧客が運用パフォーマンスの向上を求めて運用を委託していることを考えると、運用担当者の評価・報酬が運用成果に連動していることは必要と考えられています。もちろん、そこには例外もあり、例えばパッシブなど個別銘柄の選択を原則として行っていないファンドでは、パフォーマンスよりもエンゲージメントの内容など定性的な要素が大きくなる場合もあります。そのような場合には、英国では堂々と(D)であるということを言っていますし、パフォーマンスが給与を決定する一要素ではあるが、それ自体の割合は示さず、(A)から(D)のどれにも該当しないと答えている場合もあります。

しかし、一般的な考え方としては、運用報酬とパフォーマンスはリンクしており、また報酬を決定するパフォーマンスは長期であるべきという考え方がわかると思います。また、その区分が5年、3年、2年となっていることも重要です。まず、1年という区切りはありません。年間のパフォーマンスにリンクして報酬が決定されていると単年度の評価が大きくなると短期志向となり長期視点での対話が出来なくなると考え方が背景にあると考えられます。

また、理想的には5年以上で見るべきという考えを持ちながらも、人材の流動性なども考えると、実際には3年程度が中心となるという考えもあるのかもしれません。

このような考え方はスチュワードシップ・コードの有無に関わらず自然な考え方だと思います。運用コンサルタントなどの運用評価においても、運用者の報酬に関しては重要なポイントの1つとなっています。これはエンゲージメントの場面で経営者報酬がどのように決定されているかを評価するのと同じと考えればわかり易いでしょう。

つまり、しっかりと運用努力(企業の場合は経営努力)が報酬として評価される仕組みとなっているか(たとえば、固定部分が大きく変動部分が小さ過ぎる評価方法になっていないか)。また、変動部分は運用者の目標(企業の場合は経営目標)が短期になり過ぎず長期で付加価値を高めていくようになっているかなどです。この様に、これらは運用会社が経営者報酬の評価を行うときの考え方と基本的に同じであり、運用者への報酬の考え方は、その運用会社の考え方が最もよく現れる部分といえるでしょう。

日本企業は従来から経営者報酬の開示に対しては後ろ向きでした。運用会社も基本的には運用者の報酬を外部に積極的に開示することはしていません。報酬の絶対額については過去からの経緯などもあり、一概にどの程度の水準が適正とは言いにくい部分もあります。また、水準次第で固定と変動の部分の考え方が変わる部分もあります。しかしながら運用者報酬を、運用会社の投資哲学を実現しスチュワードシップ責任を果たすために、運用者が日々努力し、成果を上げ続けるためのインフラの1つと考えると、その考え方を明確にして説明できるようにしておくことは非常に重要といえるのではないでしょうか。



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