株式保有構造の研究1〜安定株主〜


株式会社が資本多数決の原則を採る限り、株式の保有構造を理解することは重要です。株式の保有構造に関してはシリーズとして、読者の皆様のご意見ご批判を受けて書き足していきたいと思います。まず、第一回は安定株主について、なぜ企業がそれを重視し、どの様にして形成されてきたかを整理します。
日本のコーポレートガバナンスを考える上で、企業の持ち合い、そして安定株主の存在の理解は避けて通ることが出来ません。機関投資家から見ると安定株主は議決権の空洞化をもたらす存在とも言え、少数株主の権利という面からも厳しい見方をしています。しかし、企業の株式・IRの方々は持ち合いという仕組みを採るかとらないかは別として、企業のファンとなる安定的な株主の存在を大事にしています。なぜ、企業は安定株主を大切にしていて、また、どの様なプロセスで持ち合いという仕組みにより安定株主を確保してきたのかを振り返ってみたいと思います。

安定株主とは何か

まずは、証券用語解説集で見てみましょう。
<安定株主>
ある企業の株主のうち、その企業の業績や株価などに左右されず、長期にわたって株式を保有する株主のこと。一般的に、その企業の経営者や従業員持株会、金融機関(メインバンク)や取引先企業などのことを指す。最近では株主優待狙いで長期保有する個人投資家も含まれる。対義語は「浮動株主」。

安定株主の定義は、様々で分析を行う上でどこまでを安定株主とみなすかというのは難しい面もあります。上記の用語解説集では個人投資家の一部も安定株主として位置づけていますが、個人投資家は議決権行使で反対は少ないとしても行使するかどうかが分りません。個々の株主が安定株主かどうかを判断する基準を外部のものは持っていないため、創業家などを除くと含まずに考えて分析するのが一般的です。

保有構造を考える上で安定株主とは、発行企業と友好的で実質的に企業の内部者として株式を保有する株主。つまり、よほど大きな経営上の問題が生じない限り、非友好的な第三者に対して株式を売却しない(とくに敵対的な買収などが仕掛けられた場合)という暗黙の契約を結ばれており、議決権行使による意見表明は事実上放棄している株主と定義付けられます。

安定株主対策

一般的に企業は上場するにあたって、安定株主対策は重要であると考えています。因みに、多くの外部コンサルは上場にあたって考えておくべき最も大切な事の1つに安定株主対策をあげています。

上場を目指す企業は概ね次のような説明を受けています。
1.株式会社において安定的な経営を行うは「一定の株式シェア」を保有することが必要であり、どの株主を安定的な株主か把握し、またそのウェイトをどの程度にするかを安定株主対策と位置付けます。上場により外部からの資金調達を行えばそのシェアは当然に下がるため、資金調達と安定株主割合のバランスをどのようにとるかは重要な資本政策のテーマとなります。
2.なぜ、安定株主が必要かというと、取締役の選任・解任や合併など経営上の最重要事項は株主総会の決議によりなされ、株主総会では各株主が議決権を行使することにより決議が行われるためです。経営者にとって安定的に経営をしていくためには一定の議決権を確保し、自分と同一又は同一方向の意思決定をしてくれる株主を確保する必要があるわけです。

このように企業は中長期的に安定的な経営を行うためには議決権行使に協力してくれる株主が不可欠と考えているわけです。企業は、安定株主を確保しておかないと経営者が思う通りの経営ができないばかりか、場合によっては会社を乗っ取られてしまうこともあるという事を常に擦り込まれているのではないでしょうか。

安定株主の持株比率については会社法に定められた株主の権利を踏まえ、株主総会において必要な議決数を確保していく事が必要と考えています。つまり、特別決議に必要な2/3と普通決議に必要な1/2が意識されるわけです。

安定株主で2/3以上の議決権を保有していれば、特別決議を要する重要事項を決定することができ、ほぼ思い通りに経営環境を築けるため、2/3以上は経営者にとっては理想的とされます。

また、安定株主で1/2超の議決権を保有していれば、取締役の選任・解任などの会社の基本的な事項を決定する普通決議に関する決定権を持つことができ、大きな問題は生じないことから、一般的には1/2超を目指しています。

どうしても1/2超を確保できない場合は、1/3超も1つの基準です。1/3超を確保できれば特別決議に対する拒否権を発動することができるため、最低限の経営権の安定を守ることができるからです。

つまり、上場会社は2/3または1/2を確保しておくべき安定株主比率として意識し、安定株主対策を進めるわけです。

(参考)
2/3以上(特別決議)
定款変更、資本金の額の減少、監査役の解任、合併、会社分割、株式交換、株式移転、事業の譲渡、有利発行による第三者割当増資、解散など

1/2超(普通決議)
取締役の選任・解任、監査役の選任、計算書類の承認、役員報酬の決定など

どの様な株主が安定株主に位置づけられるのか

誰を安定株主として考えるかですが、これは各会社の状況や経営者の考え方によって異なりますが、企業は株主を大きくは次のような区分に分けて考えています。上に行くほど安定度は高いわけですが、一般的には企業が大きくなるほど下の方の株主の比率が高くなります。

(1) オーナーおよび親族(財産保全会社を含む)
(2) 役員
(3) 従業員、従業員持株会
(4) 取引先、金融機関等

安定株主と言った場合、企業にとっては議決権の賛否判断の安定度と、株式の保有方針の安定度の2つの尺度があります。投資家から見た場合の、安定株主は何も意見表明をする事なく会社方針に賛成する株主ですが、企業の安定株主対策では会社意見への賛成は所与の事として、その保有方針の安定度を含めて考えています。それぞれの特徴は下記の通りです。

(1)創業者および親族
通常は最も安定度の高い株主です。これだけで必要な議決権を確保できていれば、上場後も私的な企業と同然です。

(2)役員
共同経営の役員がいる場合や創業時からの役員でオーナーの信頼度が非常に高い場合などは、実質的にオーナー同様の安定感があります。ただし、退職時や相続時には持株を処分することが多いため、将来的には安定株主でなくなる可能性があり会社としては一定の対策が必要とされます。

(3)従業員、従業員持株会
従業員や従業員持株会の持株は主として従業員の長期的な財産形成・福利厚生を目的としたものであり、安定株主と考えられます。しかし、企業からすると、従業員の退社などによっても変化するため、比率としての安定度は若干不安定です。また、従業員の財産形成のためのものなので、常に売却される可能性はあります。

(4)取引先、金融機関等について
取引先については、事業の提携先などで密接な関係にあれば安定度は高いと言えます。金融機関も銀行などが議決権行使で反対票を投じることは稀だと考えられます。しかし、事業上の関係や相手企業の業績によっては常に売却の可能性があり、保有比率としては安定しているとは言えません。

その他にも経営者の友人なども安定株主であると言える場合もあり、企業は個人名である程度安定度を把握していますが、外部から計測するのは難しいと言えます。

つまり安定株主対策を行うことの意味は、外部株主から影響を受けることなく、経営を行うことにあります。安定株主対策が十分でないと少数株主が一定の株主権を有するため、会社経営にこれら少数株主の方針が持ち込まれるためそれを意識せざるを得なくなります。このことをリスクとして捉えるため、企業は安定株主比率を意識した資本政策の重要性を繰り返しアドバイスされているのです。

この様に、日本の会社は上場前から安定株主確保の重要性を繰り返しアドバイスされ、上場後も極めて重要な株主対策とされています。その様な経緯から、企業の経営者や株式担当者が安定株主を重視していると考えられます。上場会社は、上場前の段階から安定株主対策の重要性を擦り込まれているため、エンゲージメントの場面でも長期視点ではなく長期保有をどうしても期待してしまうのです。

では、日本企業が安定株主をどの様にして構築してきたか、歴史で振り返ってみます。

安定株主形成の歴史

[1] 1950年代前半:
戦後、財閥解体を中心とする一連の改革によって株式所有の強制的な再配分が実施され、財閥とその持株会社が一掃されるとともに、個人株主が大幅に増加しました。低い経営者の株式保有比率と、分散した株式保有構造はこの様な戦後改革の局面が始まりです。一方、企業経営者は、株式市場の攪乱的な影響に対処するために、安定株主化を試みました。株主が経営者を選ぶのではなく、経営者が自らに友好的な株主を選ぶという、株式会社制度の原則からいえば転倒した日本独特の安定株主対策は、これが起点となっています。とくに、株式が大幅に分散した旧財閥系企業は系列金融機関を中心に積極的に株式の買集め安定株主対策を行いました。
この結果、金融機関の株式保有比率の急増や事業法人等の株式保有比率の増加により、安定保有比率が、1/4弱(1950 年)から 1/3強(1955 年)へと増加しています。

[2] 1950年代後半から1960年代前半
金融機関、事業法人等の株式保有比率の伸びはやや鈍化していますが、安定株主比率は緩やかに拡大し1/2弱まで増加しています。この時期は、投資信託が伸張した時期であり、個人の株式保有比率は急速に低下します。個人と投資信託の株式保有比率を合計した家計ベースの株式保有比率はほとんど変化していませんが、名義株主は変化したわけです。経営者が友好的な株主を選ぶという動きはいったん停滞しています旧3 大財閥系企業は引き続き徐々に持ち合いを強めています。

[3] 1960年代後半から1970年代前半
金融機関、事業法人等の株式保有比率が急増したことにより、安定株主比率は、1970年代半ばには6割強まで増加しています。この時期は、証券不況時に株価維持のために設立された株式保有機関による保有株式売却があり、その多くは発行企業の関係企業や金融機関への安定株主層に売却されました。また、1964年にOECDに加盟したことで貿易自由化・資本自由化が求められていたことで、外資による敵対的買収を恐れ、それを回避するために、企業とメインバンク間、企業間の安定保有が急速に進展したと言われています。制度的にも商法の改正を通じて、経営者の安定株主化を促進する措置が取られました。持ち合いも含めた安定株主比率は、1973年度末の法人持株比率が66.9%にも達した頃がピークとも言われています。

[4] 1970年代後半から1980年代:
事業法人等の株式保有比率はやや減少しているものの、金融機関の株式保有比率は引き続き増加しています。この時期は、主として金融機関の株式保有比率の増大により安定度が増した時期で、これを含めると安定株主比率は増加が続いていたと言え、実質的には7割近い比率になっていたと考えられます。この時期は、銀行に対して時価ベースのエクイティファイナンスによる増資が認められたこと、自己資本比率規制(BIS 規制)合意などにより、銀行による大量のエクイティファイナンスによる増資が行われました。銀行の増資は取引企業によって引受けられ、銀行が取引企業の株を購入するという形で、株式の相互保有が勧められました。

[5] 1990年代以降
戦後上昇傾向にあった、株式の相互持合いは、1990 年代に入ると大きな変化を開始します。バブル経済の崩壊以後、業績の悪い会社の株式を保有し続けることが、決算に悪影響を与える等経営上のリスクが意識され始め、株式の持ち合いを解消する動きが見られるようになりました。金融機関、事業法人共に株式保有比率は減少を続けたことにより、安定保有比率は、2000年には6割程度まで減少しています。バブル経済の崩壊に伴う株価の低迷、企業の経営環境の悪化に加え、銀行の不良債権問題も、保有株式の売却の大きな要因となっています。2000年代に入っても金融機関による株式保有は減少します。事業法人は大きな動きを見せていませんが、2000年代後半には敵対的買収への警戒感から持ち合いが増加する局面も見られました。また、これまで低水準であった外国人の株式保有比率が大きく増加した事もこの時期の特徴です。

安定株主比率の説明要因は、金融機関による保有がその時代ごとのイベントや制度・規制などで左右されているのに対して、事業法人側は安定した経営を行うための必要要件として一貫して安定株主対策を実施してきたと言えます。

投資家は安定株主をどの様に捉えているか

さて、コーポレートガバナンスの議論の中では、持ち合い解消による資本の効率化が大きなテーマとなっています。しかし、歴史的に見ると持ち合いを中心とする安定株主の存在は常にネガティブな見方をされていた訳ではありません。
1990年前後の論文などでは、株式持ち合いは、日本的経営を支え、成長志向の企業行動の制度的条件と説明されてきました。つまり、安定株主の存在が、利益とリンクしない配当政策などの必要条件となっており、最低限の株主還元しか行わない事が、高い内部留保と再投資による高成長の原動力となったと評価されていた時期もあったのです。

しかし、この事が80年代には、企業のモラルハザードと過剰投資に繋がりバブル経済の一因ともなります。また、経済成長がスローダウンし経営の変化が必要な時期に少数株主の意見が届かず、経営者のモラルハザードが深刻となっていることが懸念されました。安定株主は株式を長期安定的保有しながらも、議決権の行使をしないため、経営者の規律の緩みに繋がる可能性が高いと考えられます。議決権の行使を事実上放棄した安定株主は、他の株主の経営に対する発言力を弱め、経営者の支配力を高めます。この場合、経営者の株式集中保有による企業支配よりも、モラルハザードは深刻になる場合も考えられます。なぜなら、大量に自社株を保有する経営者にとって、過度の私的便宜の追求は、直接、自らの損失となりますが、充分に安定株主化をすすめた場合、経営者は私的便益の追求にともなう損失を、一切負担する必要が無いからです。過度の株主の安定化は、経営規律を弱める潜在的可能性がともなうと考えられるわけです。

しかしながら、企業の安定株主対策について述べたように、この部分の意識は投資家と企業で大きな相違があります。どの様にすれば、投資家の懸念と企業の不安を解決することが出来るのか、保有構造の特徴を読み解いていく事で考えて行きたいと思います。




 

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