新興企業の経営目標


 コーポレートガバナンス・コードでは企業に中期目標を示し、それが達成できなかった時にはその理由を説明すべきとしています。しかし、収益基盤が不安定な新興企業にとって、コミットできる目標の開示は容易ではありません。高過ぎる目標では下方修正のリスクがありますし、保守的すぎる目標では市場の期待を裏切ることになります。

上場企業になると、様々な経営目標を開示することが求められます。以前ですと決算発表の場面で、売上・利益などの目標を示すだけでしたが、今はROEや株主還元などの目標を示す事が求められています。しかし、新興企業はまだ収益が安定せず、その様な目標を示す事が難しい事もあります。その様の企業がどの様に目標を開示すべきかについて考えてみます。

急成長中の新興企業は、売上・利益の水準が毎年大きく変化します。その様な企業がどのような配当政策や中期計画におけるROE目標を設定することは、成熟した安定成長企業に比べて難しいものがあります。最近では上場する際には中期計画を示す事が主幹事証券から求められることも多く、上場後もそれを続けているケースがあります。もちろん、それを常に上回っている様なケースは問題がないのですが、得てして新興企業は収益のボラティリティが高く、それを下回るケースもあります。一次的にコストを抑制し利益を出すことも好ましくありませんし、逆に常に下方修正をする事も問題です。では、成熟企業に比べて収益が不安定な新興成長企業はどの様な目標設定をすればよいのでしょうか。

全ての企業に共通する事ですが、なぜ配当性向やROEの目標を開示することを株主が求めているのかを理解しておく事が重要です。株主が求めているのは企業価値の向上です。したがって、設定する目標が企業価値向上に繋がるかという事を踏まえて目標を開示することが必要です。つまり、必ずしも他の上場企業を意識した配当性向やROEの目標を設定することが求められているわけではありませんし、達成に不安のある一時点の中期計画値を示す必要はありません。

一方、新興の成長企業だからといって、中期的な見通しを持っていないのは株主にとって不安ですし、資本政策を考えなくて良いわけではないでしょう。上場企業である以上、企業価値向上を意識しどの様にして株主の期待に応えていくかを示していくことは重要です。新興企業の中には、とにかく成長志向が強く資金調達ニーズはあるのですが、株主の期待に応える手段は成長のみで、株主還元についての考え方を明確に持っていない会社も見られます。高いリターンが期待できる投資機会がある場合には必ずしも株主還元をする必要はありませんが、将来的には株主還元を行う必要があること、余剰資金がある場合には還元すべきである事などは理解して株主と対話を行う必要があります。

注意しなければならないのは、達成に無理のある計画は発表すべきではないという事です。例えば、ROEの目標を発表したために、ROEを過剰に意識し、短期的に償却費が膨らむ事を懸念して投資を躊躇するなどという事はあってはならないでしょう。償却増加によって短期的な利益が抑えられる局面ではしっかりと中期的なキャッシュフローストーリーを示す事が重要です。仮に短期的に利益が圧縮され、負債の増加によってバランスシートが悪化したとしても明確なキャッシュフローストーリーを示す事が出来れば、長期の投資家はネガティブな判断をしません。また、投資にあたってのハードルレートや期待されるROIをどの様に考えているかも明確に示しておくといいでしょう。

余剰資金は株主還元するという事を理解しておく事は必要ですが、それを単年度で行う必要はありません。どんな成長企業でも投資のタイミングは重要です。時には投資を待った方が良い局面もあり、その場合には余剰資金が発生することがあります。しかし、その様な時に無理をして株主還元を行う必要はありません。その様な局面に備え事前に、中期的な成長率、必要な投資の考え方を明確に示す事が重要です。ポイントは全ての計画を中期的な視点で語ることです。

新興の成長企業の場合、企業を取り巻く環境は時々刻々と変化します。その様な企業が配当性向やROEをコミットすることや、中期計画においても一時点の数値をコミットすることは適切ではありません。コミットできないことをコミットすることはむしろ不誠実と捉えられる事もあります。しかしながら、コミットがない事と考え方が明確でない事は全く別物です。投資の判断基準や中期的な株主還元の考え方を示す事は重要なのです。

一方、従業員も企業価値をより明確に意識する事は重要です。新興企業の場合、上場企業としての役割を従業員が意識出来ていない場合もあります。そういった意味で従業員に企業価値を意識させようという考え方は重要です。短期の利益目標だけでなく、中長期の方向性、目指すところはしっかりと示しておきましょう。

成長機会が多い場合、短期的に投資機会が乏しかったとしても、投資資金は充分用意しておく事は重要です。したがって、単年度の配当性向をコミットするのは不適切といえるでしょう。ROEや配当性向をコミットしたために短期的に償却が膨らむことを懸念し、投資を躊躇する様な事はあってはならないと思います。しかし、目標の示し方は様々であり、必ずしも定量的な数値である必要はありません。中期的な大きな考え方を示せば十分なのです。とりあえずの目標を設定するのではなく、投資家に対しては明確に投資回収に関する考え方を示し、将来キャッシュフローを最大化させるための戦略を示していく事が重要だと考えます。




 

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