株式保有構造の研究3 ~同族会社~



①同族会社は非同族会社を上回る経営成果をあげている。
②同族会社の経営が優れている理由は、経営者個人の資質よりも、責任ある株主の存在や長期指向の経営などの影響が大きいと考えられる。

8/10の日経平均電子版では2013年に発表された京都産業大学の沈政郁准教授らの研究が紹介されています。同研究では戦後、株式市場が再開した1949年から70年までに上場した会社1367社の属性を区分し、同族会社と非同族会社を比べた場合、どちらがより成長力があったかを調査しています。それによると、総資産営業利益率(ROA)や売上高成長率で比較した場合、いずれも同族会社が非同族会社を上回っているようです。

同研究は同族経営をさらに「誰が経営しているのか」に注目して分類し、業績を比較している点が他の同族会社の研究と比較してユニークな点となっています。それによると、創業者、婿養子(婿を含む)、それ以外の親族、親族以外の専門経営者に任せるケースに分けて分析すると、ROAでは創業者がトップ、次いで高いのが婿養子となります。売上高成長率で比べた場合もやはり創業者が高く、それに次ぐのは、それ以外の親族と婿養子がほぼ同じ数字となっています。

創業者が経営する会社の成長率が高いのはイメージ通りとも言えますが、記事では婿養子が経営する会社の成長率の高さに注目しています。同族会社の事業継承において、船場の商家でもよく見られるように、日本では婿養子による経営が古くから仕組みとして根付いています。この様な仕組みは、欧米はもちろん、中国や韓国でも見られない仕組みだそうです。沈准教授は「婿養子はいわば『新しい息子』を入れる仕組みであり、後継者がいない場合だけでなく、事業を引き継ぐのにふさわしい親族がいないなどのいわゆる『バカ息子』問題に対しても有効な面がある。戦後の日本経済の成長を支えた一端が、婿養子という日本独自の仕組みにあったのは興味深い」とコメントしているそうです。

世界の同族会社も経営のパフォーマンスは良好

さて、同族会社の研究に関しては、日本だけでなく世界中で様々な研究が行われています。何をもって同族会社と定義するかに関しては論文によって様々ですが、米ハーバード大学のラファエル・ラポルタらが1999年に「ジャーナル・オブ・ファイナンス」に発表した論文では、世界27ヶ国の会社規模上位20社についてのデータ分析を行い、「創業家一族が株式の20%以上を保有ししている会社」の比率は調査した結果27ヶ国平均で30%にもなることを明らかにしています。なかでも、アルゼンチンでは65%、ベルギーは50%、メキシコは100%となっています。

米国でも同族会社の比率は高く、2003年に米アメリカン大学のロナルド・アンダーソンらが2003年に発表した論文でも、S&P500会社のうち、3分の1が同族会社であり、また同族会社の方が非同族会社よりもROA(総資産利益率)が高いことを示しています。

オランダ・エラスムス大学のマイク・ファン・エッセンらが2015年に「コーポレート・ガバナンス・インターナショナル・レビュー」に発表した論文では、過去に発表された55本の実証検証をまとめた分析の結果、「米国の上場会社では、同族会社のほうが非同族会社よりも業績が良い」という結論を得ています。

なぜ、同族会社の経営は良好なのか

同族会社の経営が良好な理由については一般的に以下のような解説がされています。

理由① 同族会社は通常、創業者一族が一定以上の株式を保有しており、経営にものを申せる大株主が存在しています。
一般に、経営者の利害と株主の利害が一致するとは限りません。例えば、経営者が利益よりも企業規模の拡大に興味がある場合、過剰投資や過大な企業買収などを行いがちとなります。しかし、創業家という責任ある大株主が存在することで、株主の利害と一致しない経営者の行動を抑制できる可能性があります。逆に短期的には成果が出にくいが長期では有望な投資先への投資を後押しすることもあるわけです。

理由② 同族会社の創業者一族は、「会社と一族を一体として考える」と言われています。目先の経済的視点だけではない、長期視点での投資を行う傾向にあり、結果としてブレのないビジョンや戦略をとりやすいと言われています。
また、同族会社は非同族会社にはないリソースを持ち、それが業績に貢献する場合があるといわれています。代々引き継がれている評判、顧客、血縁を含む人脈、その会社だけに重要な経営ノウハウなどがそれにあたります。これらは、長期的な経営によって作られていくものといえるでしょう。

ただ、これらについては、従来はネガティブな見方が多かったと思います。
例えば、株主だけでなく経営者が創業家の場合、身内に甘くなりがちで、他の少数株主からの厳しい目が入りづらく、特に経営能力に乏しい2代目3代目が経営陣に登用された場合、なかなか経営責任を取らないなどのデメリットが考えられます。
また、同族にこだわらなければ、社内外の優秀な人材に経営を任せることが出来るのに、その可能性を放棄しているという面もあります。
創業家がもの言う株主である一方、少数株主からの客観的なチェックが入り難いという問題もあります。
つまり、メリット・デメリットは表裏一体なわけですが、どちらかというと客観的な実績ではなく感覚的に同族会社を否定的に見る意見がこれまで多かったのではないでしょうか。

実証的に見た同族会社の経営

米国会社に関して、同族会社を経営的なリターンだけでなくCSRの観点から調べた調査では、同族会社は非同族会社に比べて環境や社会への意識が高い事が解っています。これは、会社が「社会・環境にやさしくない」という評価を得ることが、そのまま創業家一族の評判低下につながるため、社会的責任のある行動をとる」事が原因とされています。

また、日本における同族会社の研究に関では2011年に海老原氏らが行った同族会社経営に関する大規模なアンケート調査があります。これは同族会社における経営理念や意思決定形態など定性的な分析を行っていることが特徴で以下のような点を指摘しています。
①同族会社の方が非同族会社に比べて創業の精神や理念が事業展開や業務活動に大きな影響を及ぼしている。
②同族会社の方が非同族会社に比べて、研修などの場で創業の精神や理念に関する再教育を行っている。
③同族会社の方が非同族会社に比べて、トップダウン型の意思決定形態をとる傾向にあるが、その差は大きくない。
④経営層、従業員共に創業者から代を重ねるごとに自社が同族会社であるという意識が高まっている。(これは同族会社が存続するほど、創業の精神および理念の再教育を通じて同族経営に対する意識が高まっている)

この様に、同族会社の経営に関しては、長期指向、ブレのない経営理念、などが特徴でそれが経営者だけでなく従業員にも徹底されているという傾向があるようです。

日本の同族会社の具体例

大胆でブレのない経営を行っている典型例としては、アイリスオーヤマがあります。同社は社長の大山健太郎氏以下、経営陣のほとんどが同族で固められています。

ビーム社の買収を始め大胆なM&Aと商品戦略で躍進しているサントリーも同族経営で良い意味でのリスクテイクが出来ている企業といえるでしょう。

日経新聞の記事にあった婿養子の典型例としては、スズキの鈴木修会長がいます。
鈴木氏のインタビュー記事などを見ていると、同族企業で長期政権であることを就任当初から自覚していたことのメリットが解ります。鈴木氏は40年ほど前に社長に就任した直後に大ヒット車「アルト」に恵まれます。しかし、鈴木会長は「自分は今後何十年も社長を務める。就任して早々に大きな利益を出すより、ヒット車で稼いだお金を設備投資などの先行投資に回して、スズキを立派な会社に育てて、次の世代に引き渡すのが自分の役割だ」と考えたそうです。

その他にも、アシックスの尾山基氏も、日商岩井出身で創業家の鬼塚喜八郎氏の娘婿、証券業界の革命児である松井証券の松井道夫氏も典型例だと思います。

この様に、日本独特の習慣である娘婿社長は大胆な企業変革を行う傾向にもあるようです。

一方、創業家が株主として力を持っている企業でも、創業家以外の人が社長となり躍進する例も見られます。例えば、しまむらの創業者島村恒俊氏は全く血縁関係のない藤原秀次郎氏を後継として選び、さらに大きく成長しました。トヨタ自動車も奥田社長、張社長、渡辺社長の時に大きく業容を拡大させています。

最近ではLIXIL、カルビーなどが、オーナーは同族ですが、外部からプロの経営者を招聘するというパターンが増加しています。

同族会社と言っても、様々な形態がありますが、責任ある株主が存在し、株主としてしっかり経営にコミットすることが重要であるということ、長期指向の経営が最終的には企業価値の向上をもたらしていることなどは、興味深いと思います。




 

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