低過ぎた日本企業の総還元性向


3月決算企業の決算発表シーズンとなってきました。決算発表が出揃ったわけではありませんが、2015年度は当期純利益ベースでは増益を確保したとみられます。しかしながら、ROEで見ると、2013年度の9.2%をピークに14年度は8.6%、15年度は8%割れの水準にまで低下する見込みとなっています。

利益は増えているのにROEが低下するのは、利益以上に自己資本が増加しているためです。当期純利益は13年度の28.6兆円から15年度は31兆円弱まで8%弱増加する見込みですが、自己資本は312兆円から395兆円前後へと増加しています。ROEを計算する分子(当期純利益)よりも分母(自己資本)のほうが膨らんだ結果、伊藤レポートで日本企業が達成すべきROEの目安として示された8%を割り込む可能性が高いわけです。

13年度から15年度予想におけるROEの構成要素を見てみると、財務レバレッジも5.7→5.5→5.3と低下はしてきていますが、総資産回転率が0.39→0.38→0.35と低下しており、売上高利益率も4.1%→4.2%→4.2%と伸び悩んでいます。
最近のピークとなった13年度と12年度を比較すると、財務レバレッジ7.4→5.7、総資産回転率0.37→0.39、売上高利益率2.3%→4.1%という変化でROEが6.2%→9.2%とへと一気に改善しているものの、その後は売上や利益率の伸びは総資産額の伸びに追いついていないことが解ります。

このような動きを見ると、ROEが一気に改善した13年度においてもROEを意識した財務戦略ではなく、外部環境の改善に伴い企業収益が回復した効果であり、その後も外部環境は緩やかな改善傾向にあるにもかかわらず、企業収益の改善は緩やかになると、ROEを意識した財務戦略が採られていないために、ROEは趨勢的な低下傾向となっていることが解ります。
ちなみに、16年度のROEを考えると、15年度も8%弱のROEは確保しているため、8%のROEを確保するためには利益が横ばいでも30兆円規模の自社株買いが必要とされており、15年度と同水準のROEを確保するだけでも20兆円規模の自社株買いが必要となる計算になります。
ちなみに自社株買いは09年度をボトムに増加傾向にあると言っても15年度は6.7兆円に過ぎず、過去ピークの06年度でも10兆円には到達していません。つまり、ROEを意識して収益の伸びに見合った自己資本の伸びとするために必要な総還元性向に対して日本企業の総還元性向は低すぎると言えるでしょう。

ここで注意しなければならないのは、短期的にROEの目標を達成するために自社株買いなどで対応することも不健全だという事です。例えば、円高の進行などにより外部環境も不透明な局面ではむしろ財務リスクを低下させておくことが必要となる場合もあり、株価下落時に自社株買いを行うことが出来るとは限らないわけです。

そのように考えると、14年度15年度の総還元性向は低過ぎたと言えるのではないでしょうか。なぜならば増益が続く中ROEが低下していているのは、単純に総還元性向が過少であったと言えるからです。

よく、ROEを上げるには利益の拡大が第一で自社株買いなどによってROEを上げるのは不健全であるという意見があります。しかしながら、これはバランスを欠いた意見と言わざるを得ないのではないでしょうか。

私は一定水準以上のROEを達成する手段として収益の改善か株主還元かと言った二者択一の議論は不健全だと考えています。

企業の目標とするROEと総還元性向は、企業の利益成長が長期的にどの程度になるかによって決めるべきなのではないでしょうか。その3者のバランスが取れていないと、短期的にROEが改善することはあってもそれは持続可能なものではありません。例えばROEで8%を達成し、それがすべて内部留保に回ったとすると、自己資本は8%増加します。したがって翌年に8%を達成しようとすると8%の増益が必要となるわけです。もちろん短期的にはそのようなこともあるでしょう。しかしながら、売上を8%ずつ伸ばせない企業が利益を8%ずつ伸ばしていくことは困難です。したがって、企業は自社の中期的な売上・利益成長に自己資本の伸びを合わせるべく、株主還元によって自己資本の伸びをコントロールする必要があるわけです。また、自己資本の伸びに合わせて無理をして売上・利益成長を考えるというのは不自然であり、適正な売上・利益の伸びに合わせた自己資本の伸びを確保すべく、自己資本の伸び率を調整していくことが必要なのではないでしょうか。

日本企業は30%の配当性向を掲げることが多いですが、自社株買いを行わず7割が内部留保されるとROEが8%としても毎年5%以上自己資本が伸びることとなります。短期的な利益の伸びは限界利益率に依存するため売上成長以上に利益が伸びることもありますが、中期的には売上・利益の成長に伴って固定費も増加しますので、利益率だけが上昇することはありえません。現在のマクロ環境下、日本企業が全体として5%の売上成長を続けていくのはかなり厳しいと考えられます。その場合、ROE目標が8%で配当性向は3割で良いのかという事については再考が必要であると言えるでしょう。

株主還元を考える際には、利益の何割を株主に支払うかという発想ではなく、「ROE-自己資本総配分率」が中期成長率と一致することを意識するという発想が重要なのではないでしょうか。 

*自己資本総配分率:配当総額と自社株の取得予定額を自己資本で割った値




 

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