オプトHDの教訓


監査役の代わりに複数の社外取締役を含む監査委員が経営を監視する「監査等委員会設置会社」に移行する企業が増えています。日経新聞によると2016年4月25日時点で東京証券取引所の上場企業のうち325社が導入、約190社が4~6月に移行を表明しており、最終的には6末時点で600社前後になると予想しています。また17年には累計1000社を超えるとの予想もあるようです。

監査役等委員会設定会社は委員の過半を社外取締役が占める「監査等委員会」を取締役会の中に設け、経営陣の業務運営を監視する仕組みであり、取締役会で議決権を持たない監査役に代わり、経営者の選任や解任などの意思決定に関わる社外取締役が監査を担うことからコーポレートガバナンスの強化につながるとの期待もありました。しかし先日、オプトホールディング(以下オプト)が大株主から監査等委員会への移行を反対された事は記憶に新しいところです。なぜ、オプトは大株主から反対表明されたのか、株主は監査役等委員会設定会社に対してどのような疑念を持っているのか、企業は何を考慮し移行の理由を説明するべきなのかについて考えます。

なぜ、オプトは大株主から反対表明されたのか

まず、オプトの株式を5%超保有している米運用会社RMBキャピタルが、オプトが開く株主総会で、同社の「監査等委員会設置会社」への移行提案に対して反対した理由は以下の通りです。

1.コーポレートガバナンスの核心は、経営陣の選解任等の人事権を通じて経営陣が株主価値の向上に努めるよう担保することだと考えるが、オプトの計画する監査等委員会設置会社は指名・報酬委員会を欠き、コーポレートガバナンス改善の方策としては極めて不十分であると考える。
2.監査等委員会への移行に際し、従来の監査役がそのまま取締役として監査等委員に就任するという、いわゆる横滑り人事が行われている。これまで常勤だった監査役が非常勤となり、また単独での監査権限がなくなるため、監査機能がかえって低下し、株主にとって不利益となる可能性がある。一方で、移行後も社外取締役は全取締役8名中3名と過半数に満たないため、監査機能の低下と引き換えに取締役会での議決権を付与することの効果に疑問を持っている。

以上の理由からRMBキャピタルは、(1)指名委員会等設置会社に移行するか、(2)現行の監査役会設置会社のまま、任意の指名・報酬委員会を設置することを提案しました。

RMBキャピタルの主張を見ると、どのような制度設計にも長所・短所があるわけですが、制度設計上の短所をカバーするための仕組み整えることなく、単に制度自体に問題がないとして移行することに対して実質的なメリット・デメリットを考えて反対したと言えます。これは、従来は議決権行使助言会社も含め、監査役会設置会社から監査等委員会設置会社に移行する場合には一律賛成としていた対応とは一線を画しています。

議案の採決自体は、オプトは創業メンバーと電通の子会社が合計で42.7%の株式を保有しており、実際に総会で監査等委会社移行議案が否決される可能性はなかったわけですが、あえてこの様な株主提案を行い、少数株主及び経営陣に対して問題提起を行ったわけです。また、その投票結果は監査等委会社への移行を盛り込んだ定款変更議案(2号議案)と、監査等委員の取締役選任議案(4号議案)、それに監査等委員である取締役の報酬額設定議案(6号議案)の賛成割合は80.21~81.45%となっており、反対票が2割近くに上っています。ちなみに、この総会の議決権行使割合は昨年から6ポイントほど上昇して78.5%となっており、賛成票のうち支配株主が投じた分はおよそ6割強となっています。また、議決権を行使した少数株主の議決権数のうち、反対票としてカウントされたのは49.3%となっており、少なくとも少数株主のほぼ半数は反対に回ったことになります。総会会場で権利行使したがために集計から除外された分が全て反対票だったと仮定すれば、少数株主の議決権数のうち反対割合は53.7%に上昇します。
さらにRMBは、自らは電子投票で総会前に議決権を行使する一方で、プロキシーファイトで預かった委任状を、同社ファンドマネージャーの細水政和氏が総会会場内に持ち込もうとしましたが、入場を拒否されています。このため、この分は行使個数にも、反対票数にもカウントされておらず、この分を含めれば反対割合はさらに1~2%上昇します。

このような結果を踏まえると、少数株主の約半数が反対している議案を通過させたことは法的には問題がなくとも、その正当性も含め、経営陣には、この結果をどのように受け止めたのかについての説明義務があるといえるでしょう。

オプトも指名・報酬委員会の設置については議論を重ねており、今回は見送るものの、引き続き検討していくとしています。

株主が監査役等委員会設定会社に対して持っている疑念

監査役等委員会設定会社は、一般的に投資家からは取締役会における議決権を持つ社外取締役を複数導入できることから監査役会設置会社よりはマシという見方をされていました。議決権行使助言会社も導入には反対していないため、監査等委員会設置会社への移行は比較的寛容な見方をされてきました。
しかしながらこの制度は、社外監査役を社外取締役にすればすべての会社が社外取締役複数を導入できるという、企業が安易に受け入れやすい制度であるという側面があります。そのため、独立社外取締役の数が2名に満たない上場会社にとって、移行に伴い独立社外監査役がそのまま独立社外取締役になり、独立役員の数を増やすことなくコーポレートガバナンス・コードへの対応が出来る点で魅力的と捉えられる側面があります。
しかしそのことは投資家から見た場合の懸念点そのものとなっています。つまり、社外取締役の導入を求める声が高まる中、監査役設置会社が2名以上必要な社外監査役と別に社外取締役を採用することは負担が重いという理由で、従来の2名以上の社外監査役が必要な監査役制度に代わり、2名以上の社外取締役による監査委員会を置くことで対応しようとしているのではないかという疑念を持っているわけです。
つまり、社外監査役がそのまま社外取締役に横滑りした場合、監査機能の弱体化と引き換えに取締役会の議決権を得ることとなり、社外取締役が取締役会で過半を得るなどの明確なメリットが見えない限り、ガバナンスの改善といえるかどうかは不明といえるわけです。RMBキャピタルのオプトホールディングに対する意見は、まさにこのような問題点を指摘したものと言えます。

実際に、EY総研の調査によると昨年6月総会の終了後までに監査等委員会設置会社に移行した企業のうち、独立役員の人数が増加した例は3割にとどまるとのことです。このことは投資家の懸念通りの状況にあるという事の証左でもあるでしょう。

つまり、監査等委員会設置会社の移行に際しては、制度上認められるからというだけでなく、移行の理由と、それによる明確なメリットと弱体化する可能性が懸念される部分への対応を明確に示す必要があるといえるでしょう。
具体的には、投資家に対しては以下の点を明確に答えることが出来ると納得感が高まると考えられます。

1.社外監査役と監査等委員である社外取締役では求められる役割が異なると考えられますが、仮に社外監査役を社外取締役に横滑りさせる場合、人材の資質という面でそれが適切であることの理由の説明。

2.常勤監査役がいなくなることで、監査機能がむしろ弱くなる懸念があることに対して、内部統制・内部監査機能の強化などにより、監査等委員による監査機能が弱体化しない仕組みを整えていることの説明。

3.投資家が、コーポレートガバナンスの要として期待している経営者に対する指名・報酬の監督機能についての説明。(任意の諮問委員会設置についての考え方)

企業は何を考慮し移行の理由を説明するべきなのか

これまで見てきたように、移行の理由が単に「社外取締役の人数を揃えるのに簡単だから」という事ではガバナンスの後退と捉えられる可能性があります。つまり株主に対して、企業はこの移行が企業価値向上につながるものであることを十分に検討した結果の選択であることを明確に説明する必要があります。

RMBキャピタルのポートフォリオマネジャーである細水氏は東洋経済とのインタビューの中で、「監査等委員会設置会社を選んだ理由は、当然聞けるだろうと思って問い合わせたんです。ところが全く検討している形跡がない。そんなことを聞かれること自体に驚いているという印象でした。」と答えています。厳しいかもしれませんが、重要な機関設計に対する当たり前の質問に答えられないようでは真剣にガバナンスを考えていない事になり、経営陣失格と判断されてしまうわけです。

また、既に移行した企業の中には、「監査等委員会設置会社は独立社外取締役を2人置けば問題ないから、監査役2人の横滑りなどですませることが出来る。その結果、社外取締役を雇うコストも増えないですむので株主にもメリットである」などというコーポレートガバナンス・コードの考え方に全く趣旨に反した説明を行っている会社もあり、株主からの不信感が増していることにも注意が必要です。

形式的な対応としては、監査等委員会設置会社の場合には、独立社外取締役を現在の社外監査役の横滑り+αは確保する、指名・報酬委員会なども合わせて検討し早期に設置する方向性を示すなど、ガバナンスに対して前向きな姿勢を示すこと考えられます。

また、そもそも監査等委員会設置会社の仕組み自体は社外監査役が社外取締役に代わることで監査機能やガバナンス機能が低下することが無いように工夫されています。例えば、監査等委員である取締役はそれ以外の取締役とは別に株主総会で選任され、任期は2年であり、業務執行取締役を兼ねることはできず、取締役として取締役会での議決権を持ち、株主総会において他の取締役の選任・報酬等について意見を述べることができるなどです。したがって、制度設計として、監査等委員会設置会社を選択する理由は説明しづらいものではないはずです。

結局、どの機関設計を採用するにしろ、企業の取締役・監査役が、各々の役割を十分自覚し、その権限を活用して実効性のある活動をするかどうかにかかっているということを投資家は認識しています。だからこそ、上手に活かせば経営の意思決定の迅速化につながる制度であってもが、スキームを導入しようとした「動機」が「企業価値の向上と逆行するものでないか」の確認を投資家は行いたいのです。
機関設計の変更は投資家から見た場合、その会社のガバナンスに対する考え方を理解する絶好の機会となります。したがって、総会の議案としては可決したとしても、その対応を間違えると、株主の中に根強い不信感として残る可能性があることについては真剣に考慮する必要があります。

どんな組織も、それが形だけのものか、魂が入ったものかは、運営する組織のトップに依存するだけに、機関設計についてはトップが深く理解し、自ら説明することがなによりも重要と考えられます。




 

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