アセット・オーナーに求められるスチュワードシップ責任(英国の事例から)


 スチュワードシップ・コードが制定され、H27年12月時点では201機関が受入れを表明しています。ただ、主要な運用機関が受入表明を済ませる一方、年金基金等の受入れは24機関に止まっており、企業年金は銀行系とセコムのみとなっています。この様にアセット・オーナーの受入れが遅れているのは日本だけでの事象ではなく、英国でも開始当初、アセット・オーナーの受入れは限定的でした。しかし、2012年の英国スチュワードシップ・コード改正後、アセット・オーナーの受入れが急速に進んでいます。英国においてアセット・オーナーの受入がどのように進み、アセット・オーナーにはどの様なスチュワードシップ責任が求められているのかを紹介します。

 皆さまもよくご存じの通り、英国におけるスチュワードシップ・コードは、企業不祥事に対する機関投資家としての監視責任が問われ、政府が主導的な立場をとり「機関投資家の責任」として法整備を進めました。スチュワードシップ・コードに至る流れは様々な解釈がありますが、まず抑えておいていただきたいのは、1998年の統合規範と2000年の年金法改正です。コーポレートガバナンス・コードにもつながる、統合規範では、1990年代の企業不祥事に対して企業に対してコーポレート・ガバナンスの取組をスタークホルダーに説明する事を求めると共に、機関投資家に対しては、これらの問題に対する考えを明示させると共に監視責任を問うています。また2000年に改正された年金法では、年金受託者に対して、運用において倫理的、社会的、環境的側面をどの程度考慮したかについての開示を義務付けています。

これらを踏まえると、長期的視点で企業価値の向上に取組むという意味でスチュワードシップ・コードは年金運用の目的に適っていると言えます。また、年金法の精神からすると、年金基金は当然にスチュワードシップ責任を負っていると見るのが自然と考えられています。また、受託者責任との関係では、投資パフォーマンスのネガティブな影響が明確に示されないのであれば、長期的なリターン向上をもたらす蓋然性は否定されないという考え方が採られています。

 アセット・オーナーの受入表明が急増は、2012年のスチュワードシップ・コード改正で、アセット・オーナーの役割が強調されたことが大きいと考えられています。2010年版ではアセット・オーナーとアセット・マネージャーの役割や責任の相違が明確でなく、その分担や範囲が曖昧で、機関投資家とはアセット・マネージャーだけを指すのか、アセット・オーナーまで含めるのか分らないという指摘がなされていました。それを受け、2012年版ではアセット・マネージャーに委託する場合でもアセット・オーナーが受益者に対してスチュワードシップ責任を持つことを明記。FRCの見解では両者はお互い共同して活動する事が必要であるとされ、2012年版の序論において、「機関投資家間における義務の分担は、一般にアセット・オーナーやその他のアセット・マネージャーであると考えられる範囲を拡大する」という記述が追加されました。また、「コードの適用方法に関する運用機関のステートメント(受入表明文)は、投資連鎖における署名機関の役割と一致しなければならない」と一貫性の持つことが求められ、署名されたステートメントの中で自らの役割や責任の範囲を明確に認識する事が求められています。その結果、アセット・オーナーの受入表明が急増し、2010年時点では12機関に過ぎませんでしたが、現在は80機関以上にまで拡大しています。

 しかし、スチュワードシップ活動にはコストが掛り、多くのアセット・オーナーにとってそのコストを負担することは現実的ではありません。では、多くの中小年金基金も存在する英国においてアセット・オーナーはどの様にスチュワードシップ責任を果たすことが求められているのでしょうか。日本の企業年金基金連合会に似た組織である、NAPF(英国年金協会)では、アセット・オーナーに対してシンプルな3つの要望を行っています。
① 投資原則の中にスチュワードシップを入れる
② マネージャーサーチのスチュワードシップという項目を入れる
③ マネージャーレビューの中でスチュワードシップ活動のモニタリングを行う

また、それと同時に、運用会社のスチュワードシップ活動のチェックポイントを例示しています。さらに、毎月その時々のトピックを取り上げており、それを質問する事で運用会社のスタンスやレベル感をチェック出来ると共に自分たちも学べる仕組みが出来ているのです。

つまり、多くのアセット・オーナーは自らがスチュワードシップ活動を行わない場合が多いので、運用会社のスチュワードシップ活動が実行されているかの管理が求められているわけです。そして、個々のアセット・オーナーが独自に運用会社の活動チェックを行うのは難しい場合もあるので、共同して監視できる仕組みを構築しているわけです。ただ、何よりも重要なのは、アセット・オーナーもスチュワードシップの精神に同意しているという事でしょう。

 では、日本のアセット・オーナーは何が必要なのでしょうか。

私は、まずは準拠表明が必要と考えています。「準拠表明」とは、コードの趣旨に賛同するかどうかの意思表示です。スチュワードシップ・コードは、遵守か説明かという所謂ソフトローですから、準拠表明と各原則に従うかどうかは直接の関係はありません。運用会社の運用委託が中心で自家運用するケースが稀な日本の年金基金は責任ある機関投資家として、最低限以下の方針を示す事が望ましいと考えられます。
① スチュワードシップ責任の重要性を年金ファンドとして認識している事
② 運用会社の選定・評価でスチュワードシップ責任を果たしているか確認する事
③ 選定・評価の場面で運用会社がどの様な投資哲学の下、投資先企業を理解しているかを確認する事

この様な準拠表明によることによって、①責任ある投資家として社会的責任を果たしている事になる、②運用会社のスチュワードシップ活動を確認する事によって、より具体的かつ透明性の高い方法で運用会社の投資プロセスを理解する事が可能になる、と言った効果が考えられます。

年金基金の中には、受入表明には議決権行使規定を設ける必要があると考えている基金もあるようですが、GPIFの受入表明文を見れば解る通り、基金自体がガイドラインを設ける必要は必ずしもありません。
   
運用受託機関から議決権行使ガイドラインの提出を受け、毎年度、株主議決権の行使状況について報告を受け、ミーティングを実施し、株主議決権行使の取組を各運用受託機関の総合評価における定性評価の一項目に位置付け、評価を行います。(GPIF方針文より)

 また、本来はスチュワードシップの受入方針は、定期的に見直すべきものです。つまり、受入表明を行った後に改訂しても全く問題はなく、むしろ実態に合わせて見直すことが求められています。つまりスチュワードシップ・コードの受入は、コードの精神に賛同するかしないかという事が問われているわけです。




 

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