アセットオーナーと企業との対話


①GPIFが企業との対話を実施し、運用会社を選別する際にも対話力の項目の比率を上げることはスチュワードシップ責任を果たす運用会社にとってポジティブ。
②GPIFが期待するパッシブマネージャーによる対話の効果は、現時点では実効性に疑問があり、GPIFなどが音頭を取り対話のアジェンダをある程度決めることが重要。

年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が、投資先企業との定期対話を始めており、第一回の会合は9月1日に、オムロンや日産自動車など主要企業8社のIR担当幹部とGPIFの間で行われました。今後は毎年2回程度開き、企業活動の理解を深めて運用成績の向上につなげる方針ということです。

この定期会合は「企業・アセットオーナーフォーラム」と呼ばれ、これはGPIFが今年1月に実施した主要企業向けの調査で、GPIFとの直接対話を求める回答が多かったのを受け、設けることにしたとGPIFは説明しています。同フォーラムでは長期で安定した利回りの確保に向け、環境や社会への配慮、企業統治(コーポレートガバナンス)の観点を企業評価に加える「ESG投資」などをテーマに議論するとされています。

当初は対話の内容は公開しない方針としていましたが、第一回の会合では企業側からは「短期の視点のファンドマネジャーが多い」などの声が寄せられ、企業が伝えたい内容とアナリストなどがほしい情報のズレも目立ったということです。そのためGPIFの高橋理事長は「意見交換の場にするつもりだったが、内容を他の企業や運用会社にも知ってほしい。議事要旨も公開したい」と表明しています。

英国でもNAPFやFRCが企業や運用会社との会合を持つことで、先進的な企業や運用会社からボトムアップで意見を集約しベストプラクティスを示すなど、対話や開示の改善に努めています。

GPIFは「委託する運用会社の評価手法のなかで、対話力の項目の比重をかなり引き上げ、評価項目も少しずつ開示していく」としており、運用会社を選別する際の項目とすることで、運用会社がスチュワードシップ責任を果たしていくことを期待しています。

GPIFの投資は、TOPIXなどの指数に連動するパッシブ運用が役8割を占め、長期に保有し続けるため、運用利回りを高めるには株式市場全体の活性化が欠かせません。GPIFが、企業と市場の対話を促すのは、投資家と企業の対話により日本の株式市場の底上げ、株式の投資リターンの向上につなげたいという思いがあります。

また、GPIFは海外の年金基金など長期投資家との会合「グローバル・アセットオーナーフォーラム」を設立し、「フォーラムでは日本企業にも先進的な考え方が多いことを伝えたい」と話しています。海外の投資家には日本企業は閉鎖的との見方がなお残るため、企業との直接対話を通じて得た内容を海外投資家にも伝えていく方針ということです。

お金の出し手であるアセットオーナーがスチュワードシップ活動にコミットしていることは、アセットマネージャーのスチュワードシップ活動を促進するうえで不可欠です。この様な動きは真剣にスチュワードシップ責任を果たそうとしている運用会社にとって好ましい動きと言えます。

一方で、GPIFの株式運用の8割を占めるパッシブ運用のマネージャーがどの様な対話を行い、それが本当に企業価値の向上につながるのかという点については、その実効性に対する疑問点が多いと言えます。

GPIFが行ったアンケートでも企業はアクティブ運用のマネージャーによる対話を評価しています。これは、アクティブマネージャーは個々の企業をディープに調査し、それぞれの実情を踏まえた対話を行っているからだと考えられます。一方、パッシブファンドのマネージャーは、これまで企業との対話を全く行っていませんし、そもそも企業分析の専門家ではなく計量的なポートフォリオ管理をすることの専門家です。したがって、パッシブファンドで企業との対話を行う場合には、そのための専門組織を設ける必要があります。

ここで問題となるのは、企業を本質的に理解することで超過収益を得る目的のない対話の専門人材が、本当に企業価値向上に資する対話が出来るのかということです。パッシブ運用はアクティブに株式を売買できないので、本来的にはエンゲージメントを行うメリットがあります。しかし、エンゲージメントを行って成果があったとしても、それは市場リターンの向上となるわけですから、パッシブマネージャーが他の投資家との比較で追加的な超過収益を得ることはありません。仮にそのコストを運用報酬に反映させたとすると、そのファンドはコスト控除後では確実に他のパッシブファンドのパフォーマンスを下回ることになるわけです。

つまり、パッシブファンドによる対話は売買が出来ない投資家が投資収益率を上げるという目的からは合理的に見えるものの、それによって他のファンドとの比較で超過収益を得るわけではない投資家が本当にそれを実施するかという問題があります。また、ターゲットを絞って行うアクティブファンドの運用者よりもエンゲージメントの対象が広く、かつそれによって超過収益を得る目的がない投資家が本当に実効性のあるエンゲージメントを行う力を持っているのかという問題もあります。

英国でもハーミーズやハーミーズやガバナンスフォーオーナーズの取り組みを除いては基本的にはガバナンスの問題などある程度定型化された課題に対する対話にとどまっています。米国でも経営方針や戦略的課題の提案はとしてアクティビスト・ヘッジファンドが行っており、公的年金などの機関投資家によるアクティビズムでは主にガバナンス関連など形式的な問題にテーマは限られています。

そのことを考えると、パッシブファンドの担当者に対して主体性をもって企業が稼ぐための力を取り戻すための対話を行うことを求めるのは無理があるかもしれません。しかし、だからこそ、GPIFのような組織が、その議論をリードし、企業と投資家が話し合うべきアジェンダをある程度決めていくことで、課題解決を促進することが重要になってくると言えるのではないでしょうか。




 

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