「自己資本」ではなく「株主持分」


スチュワードシップ研究会のホームページで木村祐基代表理事が『「自己資本」でなく「株主持分」と言おう!―東証・決算短信への要望(提言)―』という提言を掲載しています。日本の自己資本・株主資本・純資産などの呼び方は国際的にみて解り難い部分があります。今回は、木村氏の提言を紹介しながら何が解り難いのかについて説明したいと思います。

木村祐基氏の提言の概要

決算短信では、株主の持ち分は「自己資本」、その総資産に占める比率は「自己資本比率」、ROEは「自己資本当期純利益率」と表記されている。
この「自己資本」は「親会社株主に帰属する持ち分」(すなわち、B/S上の純資産から少数株主持分などを除いたもの)を示すものであるが、「自己資本」という用語から、これを会社のもの、会社すなわち経営者が自由に使える資本で株主に口出しされるものではないなどと誤解する経営者が少なくない。
一橋大学の伊藤邦雄教授も、『日本企業には、内部留保は「自己」資本であり、株主から文句を言われずに自由に使える「自己帰属持ち分」であるという意識が残っている』と指摘されている。
このような誤解をなくすためにも「自己資本」という用語を「株主持分」に変更することを強く提言したい。「たかが用語、されど用語」であり、日本企業が真に株主との「対話」をすすめ、企業価値向上を推進していくためには、名称の変更は必須の一里塚である。

さて、古くは、B/Sの「資本の部」を指して、純資産や自己資本などの用語が慣習的に同じ意味で使われてきた。そうした中、東証では「株主資本」という用語を提唱し、決算短信でも使用し、これが定着してきた。ところが、2006年の企業会計基準の改正で「株主資本」という用語が、「純資産の部」(従来の「資本の部」に替わる)のうち、資本金、資本準備金、利益剰余金等のみを含み、評価・換算差額などを含まない狭い意味に限定すると定義されてしまった。このため、東証では、親会社株主に帰属する持ち分(純資産合計から少数株主持分と新株予約権を除いた部分)を示すものとして、やむを得ず「自己資本」という用語を採用した。

投資家の立場からは「自己資本」という用語は違和感を禁じ得ないものであり、英語のshareholders’ equity に相当する用語としては「株主持分」が最もふさわしい。
「自己資本」は「株主持分」に、「自己資本比率」は「株主持分比率」、ROEは「株主持分利益率」と表記されると、これらが「株主に帰属する」ものであることが明確になる。
なお、日本でも、米国会計基準の会社は、日本基準の「自己資本」に相当する部分を「株主資本」と表記し、IFRSでは「親会社所有者帰属持分」と表記している。また、純資産のうち、親会社株主持分でない部分は、日本基準では「少数株主持分」、米国基準とIFRSでは「非支配持分」と表記されている。
従って、いずれにしても「持分」という用語が使われており、親会社株主の持ち分に相当する部分を「株主持分」とするのが、もっともふさわしいのではないかと考えられる。

自己資本と株主の持分の関係

自己資本というと、あたかも法人に帰属し自由に使えるお金というイメージになります。しかし、株式会社は経営資源を活用して会社の目的達成を目指すわけですが、その経営資源の活用にあたっては各利害関係者に対して様々な契約上の責任を持っています。
その契約履行の順序は、損益計算書の順序通りであり、①従業員・取引先、②債権者、③地域社会(税金)があり、その残余が株主のものとされています。その残余利益を配当として株主に配分するか、新たな成長資金として株主に再投資してもらうかということですから、内部留保される分は増資をしていることと同義です。その部分は使い方を株主から任されている部分ではあるのですが、増資と同じくその資金使途を説明し責任をもってリターンを返すことが必要なわけです。したがって、これをあたかも自分たちのポケットマネーのように考えているかのような用語を使うことは誤解の元だと考えられるわけです。

英文表記と日本語表記の差異

会計を専門としていない人たちにとって「株主資本」「自己資本」「純資産」などの言葉を日本語的にざっくり理解していると、その定義が不明瞭な状態で使用している場合が多いのではないでしょうか。まず、日本で“株主資本”というのは、外国人から見た場合Owner’s Equityを意味しています。この部分はグローバルの投資家の間ではあまり意識されることのない日本独特の定義です。これに対して「株主資本」という用語を当てはめていることで物事がわかりにくくなります。
「株主資本」を直訳するとShareholder’s Equityという言葉が当てはまります。それに対しグローバルでは「株主資本」つまりShareholder’s EquityというのはOwner’s Equityにその他包括利益累計額を加えたもの、つまり日本でいう自己資本となります。したがって、コーポレートガバナンスやファイナンスの実務家は、基本的に「株主資本」というと日本の自己資本「株主資本(=Owner’s Equity)+その他包括利益累計額」をイメージする場合が多く、この事が日本において、定義が混乱する要因となっています。

ROEを計算するうえでも分母には主に3つの考え方があります。ひとつは日本独自の、Owner’s Equityというのがあって、もうひとつは世界的に認知されている株主資本つまり日本の自己資本「Owner’s Equity+その他包括利益累計額」です。さらにもうひとつがNon-Controlling Interest(非支配株主持分)を含めたいわゆる純資産というのがあるわけです。

これらの差異は、様々な場面で利用上の混乱を生んでおり、利用者にとって解りにくいものになっています。グローバルな投資家だけでなく日本国内においても混乱を招きがちな用語についてはできるだけわかりやすい形でグローバル基準に当てはめていくことが必要です。その意味でも木村氏の提案は重要であり、誤解を受けない用語の適用が必要だと考えます。




 

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