株式市場の不確実性とポートフォリオマネジメント


株式の価値は長期的には企業価値が反映されますが、短期的には様々な要因で価格が変動します。また、長期的な価値に関しても、様々な前提の変化があり、「将来価値を正確に予想することが出来れば」という前提自体が達成困難な目標とも言えます。

したがって、株式投資は常に不確実な状態の中で行なわなければなりません。そのため、どんなに綿密な調査を行なったとしても、一定以上の確率で間違いは起こるのが当然です。その中で、どの様にポートフォリオを組み安定したパフォーマンスを上げればいいのでしょうか。

投資判断の成功確率を上げることは株式投資家にとっては常に課題で、それが向上するように努力しています。しかし、ポートフォリオマネージマントの現場では、単に成功確率が高くなるようにするだけでは不充分で、その確率がしっかりと結果に反映されるようにポートフォリオを構築していくことが大切です。この事は個人投資家が株式運用を行う上でも全く変わりません。

一般的に投資判断の成功確率を上げるためは十分な調査をすることが重要と考えられています。しかし、調査が過剰になると①調査期間の長期化によって投資タイミングを逃す可能性が高まるとともに、②確信度が過剰に高まるため失敗を認めることが出来ず損切りが遅れる、などのデメリットもあります。

株式投資は、不確実な世界の中で行なう確率のゲームであることをしっかり理解し、投資判断は頻繁に間違って当然だということを前提に、その中で成果が出せる確率の高いプロセスを構築していくことがポートフォリオマネジメントでは重要です。

今回は、株式投資をトランプゲームに例えながら、ポートフォリオのマネジメントについて説明します。

株式市場とギャンブルの類似性

株式投資を職業としていた者としては、株式投資とギャンブルが同列に扱われるというのはなんとなく納得できない面があります。しかしながら、実際のところ日本では充分な投資教育が行なわれてこなかったこともあり、今でも多くの人からは、賭博の一種の様に見られている面もあります。米国では、小学校においても証券市場について基礎的な勉強をしますが、それでも1900年代前半までは多くの人にとって投資対象としてよりはギャンブルの一つとして見られていた様です。しかし、私は株式投資は一般の方々がギャンブルに対して持っているイメージとは異なるものであると考えています。

さて、資産運用では投資か投機かということが議論になることがあります。ここで投資とは価値に基づき長期的には利益がある程度予想できるもの、投機とは価格に基づき長期的な期待リターンは存在しないが、短期的には収益が出る可能性があるものと定義したとします。このように考えると投機と投資の違いは、その手段(債券、株式、先物、ポーカーなど)ではなく、投資を行なう人の持つ技能や投資方針によるものであるとも言えます。例えばポーカーなどのカジノゲームでも、方針のはっきりしたベテランにとってはかなり予測可能性が高く、長期の収益性を持ったものとなる場合もあります。逆に株式投資でも世の中で言われている投資推奨銘柄を追いかけ頻繁に売買を繰り返していては、あてずっぽうでルーレットをやっているのと同じとも言えるのです。この場合は、投資対象に関わらず前者は投資であり後者は投機であると考えられます。

実際、株式投資は、自分の持っている知識をフル活用して、なるべく投資リターンが大きくなるように運用するゲームという側面があります。株でもポーカーやブラックジャックの様なカードゲームでも自分の手札を基に確率に対して持ち金を賭けるという点では同様のプロセスとなります。優秀な人の中でもなかなか株式投資で結果を出せない人がいますが、そのような人に共通しているのは実はこのことを理解せず、株式投資も勉強と同様に理路整然としていて突き詰めてしっかり考えさえすれば間違わないと考えている人が多いように思います。

私はギャンブルをあまりしませんがトランプゲームでも麻雀でも、上手になると勝率はかなり高くなります。自分の手のうちだけでなく相手の手も解るようになり、勝ち負けの確率がだいたい予想できるわけです。株式投資でも同じ事で、市場には十分情報は出回っているので、人が知らない情報を入手して儲けるというようなことは少なく、ポイントは情報の見方・選び方で確率を予想するということになります。

企業調査においては、既存の情報に加え、企業に対し基本的な質問を幾つかするだけで、将来の成長性の有無や収益状況などをおおよそ判断します。次に何が起るかはその時点では決して明らかにならなくても、市場参加者が想像可能な範囲で合理的な予想をするために必要な情報は、現在の手札(限られた情報)から充分類推出来るわけです。その場合、投資の世界では現在の手札から成功の確率が高いと見る限り、ゲームに参加していくことが正しいとされます。但し、その成功確率をパフォーマンスに反映していくことが重要となります。

ギャンブラーの理論とポートフォリオマネジメントの共通点

さて、米国では大変なギャンブル好きで知られているポートフォリオマネジャーから直接カジノゲームについての考え方を聞く機会がありました。ちなみに彼は多くのカジノで出入り禁止か数時間経たないうちに追い出されるそうです。大半の人がお金を無くす場であるカジノでなぜコンスタントに勝てるのかという質問を彼にしてみたことがあります。彼は「それは特に難しいことではない、全ての手札とその時の確率を完全に記憶しており、それに従ってただ賭けていくだけだ」と言っていました。彼の話ではカードゲームではカードを開いていく過程で計算することによって完全に勝率が解るそうです。コンスタントに勝つためにはうまく行く可能性が高いときにはしっかり勝負をし、勝算が低いときには躊躇なく勝負を降りるただそれだけだというのが彼の考えでした。つまり、彼にとってカジノゲームは偶然や勘に頼ったゲームではなく確率を重視したある意味での投資だったのです。

この話はただの酒の席の話ですが、彼の運用を詳細に分析すると彼のギャンブル哲学と、共通している事に気付きました。彼の運用は非常に確率重視であり、個別の事象に関してはほとんど頓着しません。一方、出来るだけ確率が高くなるように投資スタイルを築いており、その確率がしっかり活かせるように分散を効かせています。従って、1つ1つの失敗は全く頓着しませんが、確率を高めるための検証作業は妥協せずに行なっていました。そういった意味では彼は運用の世界でもカジノで行なうギャンブルの世界でも投機性が極めて小さい方法で勝負しているわけです。

このことは簡単そうに見えて実は簡単な事ではありません。ギャンブルの世界で負ける人は負けそうな時でも奇跡に期待し、スリルを楽しんで勝負し続けることによって負け続けます。運用の世界ではスリルを楽しむということはありませんが、結果的に奇跡を期待しているとしか思えない運用を行なう事や、投資のウェイト付けが不適切で結果として分散が不充分であることなどがあります。

なぜその様な事が起るのでしょうか。私は、投資の世界では予期せぬ出来事によって失敗するのは当然だということが完全には理解しきれていない事に原因があるのではないかと思っています。トランプの世界では確率が計算できるので負けることがあると割り切ることはある意味容易です。しかし投資の世界では後になれば自分はしっかりそれを予想していたという人達が必ず現れます。そのため運用者は失敗した理由の説明が求められます。運用者もここが不充分で次はここを改善すると回答する結果、チェック項目ばかりが増えていきます。また、失敗があるたびに説明・改善を求められるため、駄目だと半ば解っていてもポジションを修正できなくなったり、隠れパッシブとしか思えない低リスクの運用に移行したりするわけです。この様な悪循環はあらゆる場面で繰り返されているように思います。これは機関投資家だけでなく個人投資家でも同様で、徐々にリスクを取り過ぎたり、取れなくなったりするという経験があるのではないでしょうか。

先ほどのギャンブル好きのポートフォリオマネジャーの運用を見ていると、長い目で見た場合、自分のこれまで築き上げてきたスタイルを忠実に再現していけば勝つことが出来るという揺るぎない自信を感じたのを覚えています。彼の運用を見ていると、個別で見ると頻繁に損もするのですが別にそれはそれで受け入れ次の銘柄選択に移ります。彼の投資プロセスをみていると株式市場は少なくとも短期的には合理的なものではないし、囲碁や将棋のように実力があれば常に勝てるという種類のものではないことを理解し、自分のスタイルから得られる勝率がしっかり成果に結びつく仕組みを作ることの重要性が解ったのを覚えています。そういった意味では、有望銘柄を発掘するのがアートの世界だとすると、ポートフォリオの構築はサイエンスの世界なのです。

また、株式市場が不確実なものだと割り切ることは、ポートフォリオマネジャーの決断力という意味でも重要です。株式市場では完全な情報がない中で決断することの連続です。相場の世界で全てが理路整然と割り切れるという状態はまず存在しませんし、もしそうなった時にはすでに投資機会は失われています。従って、不確実でも既にある一定の確率を超えるという確信度が高まった場合にはリスクを取ることが求められるのです。逆に、一定以上の不確実性が高まった場面では、リスクの調整も必要となります。

株式市場の不確実性を認識していないと調査はすればするほど良いと思いがちです。これは、単純なミスを無くすという意味では正しいのですが、一方で確信度を高めすぎる結果、ミスを認めにくくするという悪影響があります。株式市場が不確実性である以上、必要以上の強い確信は致命傷となります。徹底した調査の結果、過剰な確信を持ち、ミスが認め難くなると、結果として他人からは奇跡を期待しているとしか思えない運用になってしまうのです。不確実な市場に対峙するにあたっては、どこまで調査し投資を行うことが最も効率が高いかを自分のスタイルの中で理解しておくことが重要となるのです。

私の経験では、株式投資の参加者の多くは投資判断の成功確率を上げることに注力しすぎているように感じます。正確な投資判断を行う事の重要性は否定しませんが、投資は不確実な世界の中で行なう確率のゲームであることを理解し、投資判断は頻繁に間違って当然と考え、その中で成果が出せる確率の高いプロセスとはどの様なものか、について再考してみることは有益なのではないでしょうか。




 

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