基本ポートフォリオ



①株式などを含む基本ポートフォリオを作成し、資産配分を維持することは長期的に資産を拡大させる。
②個人の資産運用でも長期で安定的に積み立て、一定のルールに従って基本となる資産配分を維持するが重要。

年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の発表によると、2015年度の運用利回りは▲3.8%とマイナスになりました。GPIFの総資産はおよそ134兆円なので、運用実績は5兆3098億円の赤字となりました。これに対しては、従来は安全第一で国債中心の運用を行っていたにもかかわらず、14年秋に基本ポートフォリオを変更し株式の運用比率を倍増させたことで、運用損を拡大させたとの批判が一部のマスコミや野党からあがり、株式の比率を元に戻すべきだとの意見もありました。
これに対して、「短期で運用損が出ることがあることは当然であり、国内外の株式・債券の代表的な指標でさかのぼれる期間で計算すると、新しい資産配分、つまり株が多い方が長期では総資産は増加している。世界全体に分散投資している場合、株の比率が高い方が長期では資産が増える傾向にある。株の比率が高くなると短期の値動きは激しくなるが、長期金利が大きく下がっている中、債券の比率が高いままでは長期的に資産を増やすことが出来ないので、長期的に見た場合には株式の比率を高めた方が資産を増やしやすい。したがって短期的な損失を批判すべきではない。」といった説明が行われています。

短期的な損失で運用方針自体が揺らぐことは、避けなければなりません。その様な短期主義が運用会社に対しても短期の運用成果を求めることにつながり、ショートターニズム(投資家と経営者が長期的利益を犠牲にして短期的利益を重視すること)を助長してきたといえます。では、そもそも、ここ数年GPIFの資産配分変更で話題になった基本ポートフォリオとはどのようなもので、特に個人投資家の方々が資産運用を考えるときにどの様な事に注意するべきなのでしょうか。

資産配分を維持することによるリバランス効果
基本ポートフォリオは中長期的な観点から策定し、一時的な相場変動に反応して簡単に変更するようなものではありません。基本的には相場が変動し、基本となるポートフォリオから乖離した場合には、リバランスを行い基本ポートフォリオで定めた資産配分の維持管理を図ることになります。
したがって、年金などの運用では一時的な相場の変動で関係者が動揺しないように普段から対話を行い、良い時にもおごらず、悪い時にも自信をもって方針を貫くことが重要です。個人の場合には関係者は存在しないことも多いのですが、自分自身や家族が不安に陥らないように、事前の方針を明確に定めておくことが重要であることは機関投資家の運用と同様に重要です。

では、次に具体的にどの様なリバランスを行って基本ポートフォリオを維持し、それが運用資産の拡大に繋がっていくのか例を用いて説明します。
(例1)日経平均が20000円から16000円に下落して再び20000円に戻った場合
a)株式100%または現金100%の場合、残高は変化しません。
b)株式50%、現金50%の場合、残高が合計で100とすると、日経平均が16000円に下落することで、株式の残高は50×16000÷20000=40となり、残価は40+50(現金)=90となります。
ここで、株式を50%とするには、株式を5買いますので、株式45、現金45となります。
その後、日経平均が20000円に戻ると、株式の残高は45×20000÷16000=56.25となります。これに現金45を足すと、56.25+45=101.25となり、残高は当初の100に対して1.25%増加しています。このよう、株価水準が変化しなければ株価に変動があることによって、リバランス効果が働き資産は増加するわけです。

これは、株価が上昇し後下落しても同じです。
(例2)日経平均が20000円から24000円に上昇して再び20000円に戻った場合
a)株式100%または現金100%の場合、残高は変化しません。
b)株式50%、現金50%の場合、残高が合計で100とすると、日経平均が24000円に上昇することで、株式の残高は50×24000÷20000=60となり、残価は60+50(現金)=110となります。
ここで、株式を50%とするには、株式を5売りますので、株式55、現金55となります。
その後、日経平均が20000円に戻ると、株式の残高は55×20000÷24000=45.83となります。これに現金55を足すと、45.83+55=100.83となり、残高は当初の100に対して0.83%増加しています。

もちろん、この様な逆張りの姿勢は株価が一方通行になった場合にはマイナスに働きます。
例えば、(例1)で日経平均が16000円に下落したのち20000円に戻らず14000円にまで下がったとします。16000円になったときに基本ポートフォリオを維持するためのリバランスを行わなければ、株式の残高は50×14000÷20000=35で、現金は50のままですので、全体の残高は85となります。
しかし、16000円でリバランスを行っているために、株式の残高は45×14000÷16000=39.375となり、現金45と合わせた全体の残高は84.375となってしまいます。
これは、(例2)のケースも同様です、リバランスを行わず日経平均が26000円に上昇すれば、株式65+現金50で合計115となったはずですが、日経平均24000円でリバランスを行っているために、株式は59.583、現金55となり、合計は114.583とリバランスを行わなかった場合を下回るわけです。
しかしながら、長期的に株価が一方的に下落するまたは上昇するといった見通しがない場合、基本ポートフォリオで資産配分を維持する効果は大きいといえます。また、長期的に上昇または下落するとしても、その過程では上下動を繰り返すので、その過程で細かく利益が積みあがっていく事になるのです。

上下5%のブレを許容するのは妥当か
さて、GPIFでは資産の値動きによって、基本ポートフォリオから資産配分のかい離が生じた場合、どこまでそのブレを許容するかについても方針が定められており、原則として±9%以上になるとリバランスを行うとしています。さて、この±9%という数字ですが、一般的にはかなり大きな数字です。

例えば、国内株式の比率は25%が基準ですから、その他の資産が横ばいだとすると、株式が4割下落したとしても、25×0.6÷(25×0.6+75)=16.7%となり、リバランスの必要はありません。また、国内株式が4割下落する時には外国株式も同様に下げるとすると、25×0.6÷(50×0.6+50)=19%ですから、基準とのかい離は6%にすぎず、ルール上はリバランスの必要がありません。つまり、±9%という数字はかなり大きく、運用責任者の判断でかなり自由にリバランスを行うことが出来ることが分かります。
もちろん、総資産が134兆円とすると、±9%つまり最大限18%の売り買いをするためには134兆×18%=24兆円の売買が必要となります。これは、日銀が年間6兆円ETFを買い増すだけで話題になる日本の株式市場においてはインパクトが大きすぎ、現実的ではありません。つまり、実際には基本ポートフォリオに近い資産配分での運用を行うものの、幅を狭くし過ぎることで市場に対してルールに従った買いや売りを想起させ、先回りされることによって結果的に不利益につながることがないように、大きめの数字としているといえるのでしょう。
個人や通常の年金基金の場合には、市場から注目されることもないため、資産配分のかい離の許容範囲は大きく設定し過ぎないことがポイントとなります。これがあまり大きいと正しい判断が困難になると考えられるためです。

許容範囲は株式などの資産をどの程度組み入れるかによっても変わってきますが、例えばGPIFの基本ポートフォリオ(国内株式25%、外国株式25%、国内債券35%、外国債券15%)であれば、株式関係資産が2割下落した場合、国内株式の比率は25×0.8÷(50×0.8+50)=22%となりますから、少なくとも3%程度のかい離が生じた場合にはリバランスを行うというようなルールが必要となると思います。

資産のキャッシュフロー特性と資産配分変更のタイミング
さて、これはGPIFの運用に関しての議論ではあまり取り上げられていませんが、私は重要と考えるのは運用資産に対して今後も入金が期待できるか、期待できないあるいは流出する可能性が高いかという事です。継続的に入金が期待できる場合、基本ポートフォリオを設定後、初期段階で損失が出たとしても、新たな資金が追加されることで、当初のタイミングの問題はそれほど大きくありません。したがって、最初からリスクを取って長期の期待リターンが最大化されるポートフォリオを組むことが可能になります。逆に、新たな資金流入が期待できない場合には、設定当初のタイミングによる影響が大きくなるため、やや慎重な運用が必要となります。

ここでも、少し例を挙げて説明します。まずはタイミングの問題を見てみましょう。解りやすくするために、株式50、現金50で運用を行い、日経平均は20000円からスタートし、1年ごとに24000円、20000円、16000円というレンジで推移し、20年後には横ばいの20000円だったという想定を置きます。
この場合、先ほど説明したリバランスの効果により、20年後の資産は110にまで増加します。ところが、もしスタート時点がレンジの下限である16000円からスタートし、20000円で終了したとすると、資産は122となります。逆にレンジの上限である24000円からスタートし20000円で終了したとすると、資産は102円にまでしか増えません。この様に長期で見ればリバランスの効果によってタイミングに関わらず資産は増加するものの、その増え方は大きく異なることが分かります。

次に資産が流出あるいは流入する効果を見てみます。
市場前提が同じで、毎年3ずつ資産は流出するケースを考えます。この場合は、16000円の時点で資産は90になり、先ほどの場合ですと株式を5買うわけですが、資産は3流出するので、87となっており、株式は3.5しか買いません。この場合、20年後の資産は50にまで減少します。また、16000円からスタートした場合には62、24000円でスタートした場合には42となります。
次に市場前提は同じで毎年3ずつ資産が流入するとします。この場合、20000円からスタートすると試算は170、16000円からスタートすると182、24000円からスタートすると162となります。
これらすべてを20000円でスタートした場合を基準に100で換算すると、下記のようになり、資産流出が大きいほど基本ポートフォリオを設定した時点の影響が大きくなることが分かります。

資産流入がない場合:100、111、93
3ずつ流出する場合:100、125、84
3ずつ流出する場合:100、107、95

投資対象となる資産の長期的な期待リターンやリスク特性に関しては数年ごとに見直す必要があります。また、それによって基本ポートフォリオの資産配分を変更する必要が生じる場合もあります。しかし、どのようなタイミングで基本ポートフォリオの運用を開始するかということが実は重要なのです。
また、タイミングの重要度は、今見てきたように今後資産の流入があるかないかによってもその重要度が異なります。多くの海外年金は今後も資金流入が続きます。そのため資産配分を変更するタイミングの重要性は相対的には低く、また積極的な資産配分も可能です。一方、今後流出超となる様な基金の場合には、初期段階で高値掴みをすると、リバランス効果だけではなかなか取り返すことが出来ないのです。

個人の資産運用における資産配分決定の注意点
ところで、最適なタイミングと言ってもその判断はなかなか難しいものです。大胆な判断をした場合、上手くいけばよいですが、必ず失敗をすることもあります。そのため年金などでは出来るだけ基本ポートフォリオに忠実な運用を行います。さて、個人の場合に置き換えますと、まずはいくらまでならロスが出ることに耐えられるかを考え、そこから逆算した場合にどこまでリスク性資産に投資できるのかというところから、株式などのリスク性資産に投資できる金額を決めて行けばよいと思います。必要とされる将来リターンとリスク許容度の関係から資産配分は決められる部分もありますが、個人の目標は常になるべく低いリスクで高いリターンを上げることだと思います。しかしながら、リターンの目標を先に立てると常に欲張り過ぎることで運用が歪みがちとなります。したがって、いくらまで損できるかというリスクの観点から資産配分を決定したほうが健全な資産運用が可能なのではないでしょうか。

また、資金の流入が継続的にあると、タイミングなどの問題を帳消しにしやすいという事は先ほど説明した通りです。そのためにも、個人の場合には出来るだけ収入がある若い時期に投資を始め、長期にわたって安定的に資金を追加していく事が重要となるのです。また、収入に対する投資額が少なすぎると、自分の収入との比較で資産運用による効果が小さくなってしまいます。投資を意味のあるものにするためには、収入の一定割合を継続的に積立投資していく事が重要です。運用のルールをしっかり設け、継続的に積立投資をしていけば、マーケットタイミングを見るといったプロでも難しい事を行う必要はないのです。

最後に、個人の資産運用で注意しなければならないのは、現金など流動性の高い資産をある程度確保しておくことです。資産のリバランスを行うべき時に流動性の問題でそれが十分できないと、リバランス効果を得ることが出来ません。資産運用を行っていると、少しでも高いリターンを求めて知らず知らずのうちに流動性を犠牲にしている場合があります。資産配分を考える際には、期待リターンとリスクの関係だけでなく、十分にリバランスが可能な流動性があるか、リバランスを行う際のコストはどの程度かという視点も重要なのです。




 

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